債務整理というと、一般的には任意整理、自己破産、個人再生の3つが主に利用されています。
しかし、実は債務整理には、もう一つ、特定調停という手段があります。
ここでは、第4の債務整理の手段である特定調停について、手続の流れやメリット、デメリットなどについて詳しく解説していきます。
任意整理は裁判所を通さない手続、自己破産と個人再生は裁判所を通した手続でした。
特定調停は、自己破産や個人再生と同じように裁判所を通した手続です。調停という言葉が付いていることからも想像が付くように、家事調停や民事調停などと同じように、裁判所にいる調停委員が間に入り、債務者と債権者から話を聞いて、両当事者が納得できるような和解を目指すという手続です。
特定調停を開始するためには、まず簡易裁判所への申立てが必要です。申立ては書面によって行わなければならないため、申立書を作成するところから始まります。
申立書の書式については、通常、申立をする簡易裁判所に用意されています。
申立をする簡易裁判所は、相手方の住所、居所、営業所又は事務所の所在地を担当する簡易裁判所です。相手方(債権者)の営業所等が、東京23区内にある場合には、東京簡易裁判所に申立てをすることになります。また、特定調停を行いたい債権者が数社あって、A社は東京23区内にあるが、B社は京都市にあるといった場合、原則は東京簡易裁判所と京都簡易裁判所に別々に申立てをしなければなりませんが、東京簡易裁判所がA社とB社の特定調停をまとめて取り扱ってくれる場合もあります。
特定調停を申立てる裁判所が決まったら、そこで申立書のひな形を受け取り、申立書を記入していきます。なお、東京簡易裁判所では、HP上から特定調停申立書をダウンロードすることができます。
申立書には、申立人の住所・氏名・生年月日・電話番号、相手方の住所・会社名・代表者名・支店や営業所の名称・所在地・電話番号の他、債務の種類、契約日、借受金額、残元金、契約番号などを記載します。
また、申立に当たっては、特定調停申立書の他、財産の状況を示すべき明細書、特定債務者であることを明らかにする資料、関係権利者一覧表なども作成します。
特定調停の申立書類一式が完成したら、簡易裁判所に提出します。このとき、申立手数料と予納郵便切手も一緒に提出しなければなりません。
申立手数料は、相手方1社あたり500円です。予納郵便切手は、相手方1社あたり430円分(84円切手5枚、10円切手1枚)です。
申立が認められると、裁判所から相手方(債権者)に申立書のコピーが郵送されます。
申立ての日から約1か月後に、事情聴取期日という名前の調停が開かれます。この日は、申立人(債務者)だけが出席し、調停委員に対し、生活状況や収入、今後の返済方法についての希望などを伝えることになります。
事情聴取期日から2週間後~1か月後に、調整期日という名前の調停が開かれます。この日は、申立人(債務者)だけでなく、相手方(債権者)も出席し、返済方法についての話し合いが行われます。
申立人の希望と相手方の希望が一致すれば、そこで調停成立となり、あとはその合意に沿って返済を行っていくことになります。1回目の調整期日で合意ができなければ、2回目、3回目と期日が重ねられることになります。期日を重ねても合意に達する見込みがなければ調停不成立となって終了となります。
なお、調停が不成立となった場合、債権者は債権回収のための裁判を起こすなど次の手段に出ることになります。
特定調停のメリットは、何と言っても費用が安く済むことです。
特定調停は、弁護士に依頼せずにご自身で行うことができます。実際、特定調停を弁護士に依頼する方はほとんどいらっしゃいません。弁護士に依頼した場合、任意整理であっても数万円の費用がかかります(当事務所の費用については こちら をご覧ください。)
特定調停をご自身で行う場合、債権者が1社だけであれば、申立手数料500円と予納郵便切手430円分の合計930円と、期日出頭のための交通費だけで済んでしまいます。
個人の方が、今後の返済方法などについて、クレジットカード会社の担当者と直接話をしても、借主の側には約束通りの返済ができないという負い目があるためか、なかなか思うように有利に交渉を進めることができない場合があります。
この点、特定調停では、調停委員が間に入り、両当事者の意見を聞いた上で和解をまとめようとしてくれるため、一方的に債権者に有利な和解が成立してしまうということは少ないといえます。
財産の処分は不要
自己破産の場合、家や車を持っている方であれば、これを処分しなければならない場合もあります。しかし、特定調停であれば、特に財産の処分は必要ありません。
もっとも、個人再生や任意整理でも財産の処分は必要ないので、特定調停だけのメリットというわけではありません。
免責不許可事由があっても利用可能
自己破産の場合、借入れの原因がギャンブルや風俗といった免責不許可事由に該当するものである場合、免責が認められない場合もあります。しかし、特定調停であれば、借入れの原因が何であっても利用することはできます。
もっとも、個人再生や任意整理でも借入れの原因は問われないので、特定調停だけのメリットというわけではありません。
資格制限はされない
自己破産の場合、開始決定から免責決定が確定して復権するまでの間は、資格が制限されて一定の職には就くことができません。しかし、特定調停であれば、そのような資格制限はありません。
自己破産の資格制限について詳しく知りたい方は こちら をご覧ください。
まず、特定調停を開始するためには申立書一式を揃えて提出しなければなりません。申立書一式には、特手調停申立書の他に、特定調停申立書の他、財産の状況を示すべき明細書、特定債務者であることを明らかにする資料、関係権利者一覧表なども含まれています。これらを正確に記入して作成するのは決して容易ではありません。これらを全てご自身で行わなければならない点が大きなデメリットです。
弁護士に債務整理を依頼した場合、数日で債権者に受任通知書を送ってくれますので、比較的早期に催促を止めることができます。イデア・パートナーズ法律事務所では、ご依頼いただいた当日または翌日には受任通知書を発送しています。
他方、特定調停の場合、申立書一式を作成して裁判所に提出し、裁判所がこれを受理した後に債権者に申立受理通知書が発送されます。まず申立書一式の作成に時間がかかりますし、少しでも不備があれば訂正して再提出しなければならないなど、裁判所に受理してもらうまでにかなりの時間を要してしまいます。
そのため、特定調停の申立てによって債権者からの催促が止まるとは言っても、止まるまでにはかなり時間がかかってしまいます。
調停期日は平日の午前10時から午後5時までの間に行われます。早朝や夜間、土日祝日などには開かれません。そのため、大抵の方はお仕事を休んで裁判所に最低2回、場合によっては3回も4回も通わなければなりません。一回の調停は1~3時間程度ですが、時間が読めないので調停期日の後に予定を入れるのは避けた方が良いでしょう。
特定調停は、裁判所を通じた手続ではありますが、あくまで当事者間の合意をもとにした手続です。したがって、自己破産や個人再生のように、債権者に言わせず借金をゼロにしたり、最大10分の1にまで借金を圧縮するといった効果はありません。基本的には、借金の金額は変わらず、あとは分割回数をどれくらいにするかといったところで譲歩せざるを得ないケースが多いでしょう。
特定調停で合意が成立すると、調停調書というものが作成されます。この調書は、確定判決と同じ効力を持っており、もしこの調停調書に書かれた内容どおりに返済をしなかった場合、債権者は直ちに強制執行ができます。そのため、特定調停が成立し、その後調停で決めた内容どおりの返済を怠った場合、すぐに給与を差し押さえられてしまうといったリスクがあります。
任意整理の場合、和解書を作成しますが、和解書には確定判決と同じ効力がありません。もし和解書通りの返済がなされなかったとしても、債権者としては、まず裁判を起こし、勝訴し、判決が確定するまで待たなければなりません。ここまで来て初めて強制執行が可能になります。
特定調停の場合、返済が滞ればすぐに給与の差し押さえなどの強制執行ができますが、任意整理の場合、返済が滞ってしまっても、相手方が裁判提起の準備を始めてから勝訴判決が確定するまで、どんなに早くても2か月程度はかかりますので、その分の時間の猶予があります。
以上のとおり、特定調停にはいくつかのメリットがあるものの、その多くは他の手続(任意整理や個人再生)にも認められるものであり、決定的なメリットしては、費用が安く済む、という点に尽きてしまうように思われます。他方、申立書一式の作成に時間がかかることや、平日昼間に裁判所に行かなければならないこと、減額もあまり期待できないことなどから、他の手続と比べたときのデメリットは多いと言わざるを得ません。
実際、平成15年当時は54万件もあった特定調停ですが、平成26年には約3000件にまで減少しており、現在特定調停を利用して債務整理をしようと思う方はかなり少数派といえるでしょう。
今後、特定調停がもっと債務者の方にとって使い勝手の良いものに改善されていくことを期待したいと思いますが、少なくとも現在の運用が続く限りは、特定調停よりも任意整理や自己破産、個人再生といった手続を選択する方が賢明かも知れません。
メリット
いくつかのメリットがあるが、他の手続にも同様のメリットあり
デメリット
デメリットはそれなりに多い
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